興味深い本|ニュースレターNO.069

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運動科学

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新学期を迎えバタバタしている中で、先週送られてきた雑誌を読んでいたら、新刊の紹介がありました。それは京都大学の2年生の「運動科学」の授業で使う講義シリーズの本で、昨年の講義から使われたもので今年の2月に発行されたものでした。

タイトルに興味があり、以前に著者の本を読んだ事があるので早々に購入しました。

その本は「運動科学-アスリートのサイエンス」(丸善株式会社)で、著者は京都大学大学院の小田伸午氏です。小田氏は人間の身体運動やスポーツに関する運動制御機構を心理、整理、物理の各方面から総合的に分析されている方です。私が以前に読んだのは「身体運動における右と左」というものです。

高校までは陸上競技のスプリンターで、大学ではラグビーをしておられたこともあり、ご自身の経験も踏まえた解説が面白いです。身体運動をいろんな方面から解説されており、文章も平易でわかりやすいものです。その中から幾つか参考になるところを拾ってみました。

著書の冒頭のプロローグの中で、次のようなことを述べています。

『脳の中に暗黙的な身体性があることは、最近の認知神経科学研究が明らかにしています。他者の動作をみるだけで、みたヒトの脳の中では、みることにかかわる脳の部位も働くが、みた動作を自分で実際に行うときに働く脳の部位も活動するという研究報告があります。

ということは、選手がビデオを通じて、自分の欠点のある動作を何度も何度もみることで、脳の中で、悪い動作を繰り返していた可能性があるのです。動作をみるだけで、脳の中の身体は動いているのです。しかも、そのことに、われわれは気がついていないのです。』

イメージトレーニングの際に、ビデオを見る際に大いに役立ちます。見ている相手が上手くできている素晴らしい自分であることが必要であるということです。

 

また「運動科学」ということについて;

『スポーツは「頭」で検討して、「感じ」で実践します。スポーツ科学者がスポーツ動作を研究するときには、選手の動作を外から観察して、種々の分析を経て、言語や数値で表現します。しかし、スポーツ選手が実際に運動を行うときには、自分の中の感覚を用います。

言語や数値で表し得る客観的分析を基にした動作記述がスポーツ科学の世界です。一方、自己の感覚・感性・イメージなどによって主観的に運動を実践するのが、スポーツ競技の世界です。

例えば、陸上競技のスプリント(短距離走)の場合、バイオメカニクスの研究者は、走者の脚の後方スイングに目をつけ、世界の一流スプリンターは、脚の後方スイング速度が速いほど、疾走速度が速いと結論しました。

しかし、後方スイング速度という客観的分析結果をそのまま走るときの主観的動作イメージに持ちこみ、後方に脚を引き戻す動作感覚(例えば、後方にひっかく感覚)で走ると、走スピードは上がらないのです。

客観的に理解したことを、そのまま動作感覚に直訳してしまうと、うまくいかないことが多々あります。客観的世界と主観的世界の二つは、互いに異なる別々の世界を成しています。二つの世界は別々の世界であるから、一方から他方へ越境するときには、翻訳が必要になります。

二つの世界のずれを認識し、二つの世界の対応を考え、互いをどう結ぶのか。これらのことを考える講義、それが「運動科学」です。』

現在のように情報があふれた状況の中にあって、何をあてにすればよいのかということより、どの情報をどのように活用すればよいのかを考えなければいけないことがよく理解できます。

『ヒトの身体運動を物理法則の側面から明らかにするバイオメカニクスや、動作に対応した筋活動パターンを示す運動生理学などのスポーツ科学が明らかにする知見は、真実の運動の仕組みを示唆してくれます。これらの科学的知見は、主観的な感覚でとらえることができないものや、感覚でとらえた内容とずれていることがあります。

運動を実践するときに、身体の中で起きている現象をすべて己の感覚でとらえることはできないのです。この意味において、スポーツにおいて科学の果たす役割は大きいと考えます。

自己の身体の中で起きている真実の運動の仕組みを知ることで、スキル実践において、何に意識をおくべきで、何に意識をおいてはいけないかの区別ができるようになるからです。

近年の脳科学(神経科学)の成果には、目を見張るものがあります。さまざまに動作感覚を変えて運動を行ったときの中枢神経系の活動を記述する脳科学の知見は、人の運動実践における主観的世界を表す可能性があるのです。

運動実践における主観的世界とは、運動実践時に用いる個人内の主観的運動プログラムを表す可能性があります。このような意味で、近年の脳科学が明らかにした知見は、スポーツを科学する研究者にも、スポーツを実践する立場のコーチや選手にも、根源的なヒントを与えてくれます。

近年の認知神経科学も、スキルトレーニングを考える上で注目に値します。運動制御には、意識に上らないものがあることを示した面白い実験があります。1から4までの数字を1個ずつ2秒おきに10回連続して呈示し、被験者は、1が提示されたら人差指を、2は中指、3は薬指、4なら小指でキーを押します。

被験者には知らされていないのですが、番号の繰り返しには順序性があり、回数を重ねるうちに被験者は、次第にその順序性に気がつくようになります。驚くべきことに、順序性に気がつく前に反応時間が短縮しているのです。このことは、身体が脳より先に運動を学習していたことを示しています。

また、この研究では、脳の活動領域にも注目しており、身体で覚えることと頭で覚えることは、脳の異なる領域で処理されることを明らかにしています。

身体運動を物理・生理現象としてとらえ、人間の意識にまでさかのぼり、意識に基準をおいて(意識をおかないことも含めて)、身体運動の物理・生理現象を考え直す。このとき、スポーツ科学がその客観性の枠を飛び越えて、スポーツを実践する人間の主観性の中で生かされることになります。運動科学の目的もそこにあります。』

この部分は、「コーディネーション」と「コオーディネーション」の違いと同様で、脳が先か身体が先かというものであり、そのとらえ方の違いによってトレーニングの方法も目的も異なるし、その結果も違ってくるものと思われます。

第1章の「筋力発揮の科学」というところで、トレーニングの「特異性」について次のように述べています。

『これまで筋力トレーニングに関して、さまざまな研究がなされていますが、とくに、トレーニング効果の特異性という点について述べておきたいと思います。

トレーニング効果の特異性というのは、①力ゾーン、②パワーゾーン、③スピードゾーンの三種類の筋出力トレーニングをそれぞれ行ったときのトレーニング効果は、トレーニングを行ったゾーンでの筋出力発揮能力の伸び率が最も高いのです。つまり、①のゾーンでトレーニングすれば、スピードが最もアップします。

③のゾーンでトレーニングすれば、力が最もアップします。②のゾーンでトレーニングすれば、パワーが最も伸びます。

例えば、野球で速いボールを投げる能力の向上を考える場合、まず、その能力は、スピードゾーンの能力であることを押さえていないといけません。

硬式野球のボールは、145gです。そのボールを時速150kmの初速で投げるときの筋出力発揮は、明らかにスピードゾーンです。

必要なのは、力ではなく、スピードなのです。こう考えると、多くのスポーツ種目が、じわーっとゆっくり大きな力を出すようなものではなく、スピードゾーンに入るものと考えられます。

筋力をつけたら速く走れるのですか? 筋力をつけたら速い球が投げられるのですか?この手の質問をよく運動科学の受講生からもらいます。

筋力トレーニングを行ったことがない人が、最大筋力の50%以上の力ゾーンで、身体各部の筋群をまんべんなく筋力トレーニングすれば、最初の1、2年は走る速度も、投げる球の速度も向上すると思います(筋力トレーニングの初期効果)。

ただし、競技レベルが上がるにつれて、大きな力をじわーっとゆっくり出す力ゾーンの能力と、力は小さいが、速い速度の筋出力を発揮する能力とは、仕分けて考えないと、それ以上の成果が得られなくなります。これは、競技者としてのレベルが上がるほど、いえることです。

筋力トレーニングの初期効果に味をしめた人の中には、筋力トレーニング万能主義者に陥る人もいます。筋力さえ鍛えれば強くなれると錯覚してしまうのです。技術的な側面と、精神的な側面と、筋出力発揮能力の三つの側面が、どのように関係するのかをしっかり感じながら一歩一歩進んでゆきたいものです。』

解かっているようで間違いやすいところですが、上手く解説されています。

第5章の「走運動の科学」のところでは、「客観と主観のずれ」について次のように述べています。

『コーチは、自分で成功した経験からくる主観的な感覚が絶対的に正しいと曲解して、どの選手に対しても、それを押しつけて失敗することがよくあります。選手が共通原理を理解していないのか、その感覚を修正すればいいのか、いずれなのかをコーチは見極める必要があります。

スポーツにおいては客観と主観がずれています。外からみた動き(客観的運動)と実際に選手がその運動をするときに用いる運動感覚(主観的運動)とが食い違います。名コーチ、名監督といわれる人は、多かれ尐なかれ主客を分けてとらえることに長けています。

その昔、プロ野球の三原脩監督が、ある有望新人に対して、「コーチがいろいろいっても聞くな、困ったら俺のところにこい」といったというエピソードを、その新人を大学時代に育てた監督さんからお聞きしたことがあります。三原監督は客観と主観の違いをわきまえていたといえます

スポーツの実践では、科学(客観観察)を自分の内的感覚にまで咀嚼することが不可欠です。中学生のころにスプリント・ドリルを曲解した苦い経験がありながら、それでも運動科学の授業で後方スイングを意識することが大事であると誤って主張したときの私は、主観と客観のずれに思いが至らず、部分的分析結果を、そのまま走るときの主観的イメージにあてはめようとする過ちを犯していました。

スポーツの客観的分析に携わる科学者は、厳密な科学の枠の中の客観分析と並行して、部分分析を絶えず客観的に総合することを心がけ、さらには、部分分析や客観的総合知見が、運動実践者の感覚的な主観性とどのようにかかわるかにも関心の枠を広げたいものです。客観と主観は、ずれていて1つです。』

まさに科学的分析が優位に立つ・絶対視することへの警戒です。問題は分析することではなく、その結果をどのように咀嚼し、現場で有効利用できるかどうかということです。

また新しい運動原理として「二軸運動理論」を提唱しています。これまでのからだのバランスや運動軸の考え方は、体幹軸による中心軸感覚で動作が行われているということで、一流選手の運動軸は両側性の二本脚による二軸感覚・動作で行われているというものです。

非常に興味深い考え方ですし、私のこれまでの指導もそれに近いものであったのかと思いました。そして、『なんば歩き』についても歴史的な解説をされており、この部分も面白いものです。「二軸運動理論」に固執しかけている部分も感じ取れますが、ここから「頭の位置」などが考慮されてくるともっと面白い考え方が出てくるようにも思いますが、最終的には自然な動き、人間本来の動きというところに落ち着きそうな気がします。

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