陸上競技の文献から|ニュースレターNO.095

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平成スポーツトレーナー専門学校の校長になったことを機に、『月刊陸上競技』で連載することになりました。連載は、「T&Fコンディショニング」というタイトルで、5月号からスタートしました。

内容的には、余り学術的にならず理解しやすいように解説的な形式でコンディショニングについてまとめています。ちなみに、5月号は「コンディショニングの概念」、6月号は「筋力をどのように高めるか」、そして来月発刊の7月号は「持久力をどのように高めるか」というテーマになっています。

この連載を機会にいろいろ陸上競技の文献を読んでおりますが、現在も連載が続いております月刊陸上競技の「陸上競技のサイエンス」という連載があります。その連載46(2003.03.)に「スプリンターのためのボディデザイン(深代千之)」という文献が目にとまりました。

速く走るための動きやトレーニングに関する多くの示唆が得られる内容であると思いますので、その内容をまとめて紹介したいと思います。

 

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走運動の発生

ヒトは、走において抗重力型の体幹・下肢の発達を促してきた。この抗重力型の筋・腱複合体の特徴をみるために、筋と腱、そしてそれを合わせた筋・腱複合体の機能を最近のバイオメカニクスの手法でシミュレートしてみた。1個の筋・腱複合体について、筋と腱の長さの比率、そして負荷重量を様々に組み合わせて筋・腱複合体の能力を推定してみた。

その結果、重りが軽い時には腱が長いと大きな機械的仕事が発揮され、重りが重いと長い筋線維(短い腱)で高い成果が得られる。言い換えると、腱に対して筋が長い方が重い重りで大きな仕事をすることができ、逆に腱に対して筋が短い場合は軽い重りの方が効果的に仕事をすることができる。

この結果と身体各部に配置された筋・腱複合体の形態的特徴をあわせて考えると、身体における筋の配置は極めて理にかなっていることがわかる。

つまり、身体の中枢にある筋、例えば体幹の大臀筋などは筋束が長く(筋・腱複合体全体の83%が筋)、重い負荷に対して大きな仕事を行うことができ、逆に末端の下腿三頭筋などでは長いアキレス腱(筋は筋・腱複合体全体のわずか17%)によって軽い負荷で大きな仕事を行い得る。

このように、筋・腱複合体の能力が効果的に発揮されるように、それらをうまく身体各部に配置してヒトは進化してきたということがわかる。

 

スプリント走のバイオメカニクス研究

100mのスピード曲線は、加速期、等速期、減速期と分けることができ、パフォーマンス(記録)は中間疾走(等速期)のピーク速度と高い相関があることが報告されている。

中間疾走のスピードは、物理的に地面に対する腰の相対速度で決まる。この相対速度は腰と地面をつなぐ支持脚の動き(スウィング動作)によって決まる。支持脚の動作は、バイオメカニクスの解析により、次のような特徴をもつことがわかっている。

下肢の振り戻し動作では、着地直前から支持脚全体を1本の棒のように動かす。つまり膝・足関節は屈伸せずに固定し、股関節の伸展のみとなる。したがって、地面と腰の相対速度に関しては、股関節の伸展筋群(大臀筋およびハムストリングス)の短縮スピードが重要になる。

もし、下肢の質量がゼロに限りなく近ければ、股関節伸展の主動筋の筋力は(大きかろうが小さかろうが)ほとんど関係なく、速筋・遅筋といった筋線維組成と筋線維の長さを基にした収縮スピードに依存する。

しかし、現実には、下肢は骨格(大腿骨、下腿の腓骨・脛骨、足部の骨)と膝・足関節を固定するだけの等尺性筋力を発揮するための筋が必要となる。換言すれば、下肢質量はゼロにはならず、また身体質量を前方へ移動させるために地面反力を受けなければならない。

したがって、股関節伸展の主動筋は下肢の質量を速く動かすために、大きな筋出力が必要になる。この筋力発揮は、接地局面だけではなく、1サイクル全体で股関節を中心に行うことが重要であることが下肢3関節のトルク・並進力パターンからわかる。逆に、同じ股関節の筋出力ならば、脚はできるだけ細く長い方が末端は速く動くといえる。

同様に、振り上げ脚も股関節屈筋群(腸腰筋と大腿直筋)だけが重要になる。さらに、この振り上げ脚によって作られた機械的エネルギーの振り戻し脚(支持脚)への伝播、そして上半身、特に腕振りによって作られた機械的エネルギーの下肢への伝播も貢献する。

身体に配置された体幹の筋束の長い(腱の短い)筋・腱複合体を使って大きな機械的エネルギーを作り、末端に配置された長いセグメントにその機械的エネルギーを流す。末端の筋・腱複合体は腱が長く軽い形態となっている。

以上から、走スピードを決める因子は、股関節屈伸の収縮力に基づいた脚のスウィングスピードであると結論できる。

 

スプリント・ボディデザインのための視点

股関節屈伸の収縮力をどのような原則に基づいてトレーニングすればよいか。

(1)筋の収縮様式とトレーニング:短縮性・伸張性収縮、伸張・短縮連関SSC

SSCはこれまで筋・腱複合体全体の長さ変化としてみられていたが、最近、筋と腱を分けて観察する研究から、運動強度の低い歩行から強度の高いドロップジャンプまで、筋は等尺性収縮に近い状態にあり、腱が主に伸縮することがわかってきた。したがって、SSCでも全体の長さ変化ではなく、筋と腱それぞれに注目してトレーニングを考える必要がある。

(2)筋・腱複合体の身体配置を考慮したトレーニング:筋の長い体幹と腱の長い末端のトレーニング

(1)のことから、体幹と末端の筋・腱複合体のトレーニングは分けて考える必要がある。体幹では筋自体に強い負荷を、特に伸張性活動でかけて肣大させることが重要である。この方法については、これまで蓄積されてきたレジスタンストレーニング理論が有効となる。

一方、末端の筋を肣大させないで腱をトレーニングする方法は、まだ確立されていない。ただ、腱のトレーニングには腱を大きく伸縮させることが必要と考えられ、それには(腱の力‐長さ関係から)力の大きな増減が必要となる。したがって、大きな地面反力をほぼダイレクトに腱で受け止める足関節を中心としたその場ホッピングのような方法がよいと考えられる。

(3)負荷方式とトレーニング:重量負荷と慣性負

(4)筋の至適長および動きの可動範囲を考慮したトレーニング

筋力トレーニングは角度(筋長)依存性もある。つまり、トレーニングを行った関節角度で特に大きな力が発揮され、それ以外の角度(筋長)ではトレーニング効果が低いという現象がある。したがって、トレーニングは筋自体の至適長とともに、実際の運動で使用される可動範囲を考慮する必要がある。

(5)両側性機能低下を考慮したトレーニング

両側性機能低下というのは、例えば、左右それぞれで測定した握力を合計したものの方が、1つの握力計に対して左右一緒に発揮した握力よりも大きい。つまり1と1を加えても2にならない(1+1>2)という両側性筋力発揮における中枢の抑制現象を示す。

これを基にすると、両側で筋力発揮するスクワットなどの場合には中枢からの抑制がかかり、十分な筋活動が達成されないということが予想される。また、トレーニング効果においても両側性における中枢の抑制が影響するという研究がある。簡単にいうと、左右交互動作である「走」を目標にする場合、「片側ごとにトレーニングすることが望ましい」ということを示している

 

スプリント・ボディデザインのためのトレーニング

スプリンターのボディデザイン構築のためのトレーニングとして、体幹の筋、つまり腸腰筋、大臀筋、ハムストリングスをターゲットにする。ターゲットにした筋が、走動作で使われる関節角度、また筋長が至適になるような関節角度に設定する。中枢からの抑制がかからないように片脚で行う。伸張性および伸張短縮連関の筋活動で行う。

このような条件に合う1つの方法として、フライングスプリットと呼ばれるトレーニングが考えられる。体幹を上下動させジャンプしながら脚を交差する動作である。この動作で重要なのは、空中の脚の交差ではなく、接地中に腰が最下点で切り返しを行う局面で、ここで腸腰筋・大臀筋・ハムストリングスが伸張短縮連関となる。

バーベルをもって、負荷をかけるのもよい。その場合は2~3回上下動した後にジャンプして脚を交差する。

トレーニング中はもちろん、通常の疾走中でも、体幹や股関節屈曲・伸展筋群に意識を集中させる。この意識の集中によって筋形状が変化する可能性もある。例えば、サッカー選手に比較して陸上のスプリンターは大腿四頭筋の上部が太いという現象が観察されている。

ある筋活動において筋・腱複合体の両端(起始と停止)に生じる力は同等になるが、1つの筋の中でフェイズシフトが生じている証拠だといえる。

フェイズシフトとは、中枢からの刺激によって筋が活動するときに、刺激が1個の筋全体に一様に伝えられるのではなく、ある一部分に集中することを示す。その結果、トレーニングによって筋が一様に肣大するのではなく、ある部分が特異的に肣大し、別の部分はそれほど肣大しないという現象が現れると考えられる。

まとめとして、「スプリントのためのボディデザインがうまく構築されれば、質の高い走りのトレーニングができるという点が重要であり、速く走るためには“走り”のトレーニングを基礎にすべきで、走りのトレーニングの質をいかに向上させるかということである」と書かれています

上記の内容から、スプリンターのためのトレーニングについて多くの示唆が得られると思いますが、この情報からいくつのプログラムやエクササイズを作成することができるでしょうか。

速く走るためには、何が問題であり、そのためにはどんなトレーニングや練習をすればよいのかわかったと思います。いくつかプログラムができればぜひお聞かせください。この文献からトレーニングのポイントは1つに絞れると思います。「理解する→応用する」ということです。

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