デクステリティ-その1|ニュースレターNO.116

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4月に入り、平成スポーツトレーナー専門学校は、37名の新入生が私のカリキュラムに取り組むことになりました。学内の改革や施設の改装などに追われ、学生募集が完全に遅れた形になったのですが、私のカリキュラムの1年目としては理想的な人数かもしれません。

もちろん、学校経営上では問題大いにありです。多くの学生にきてもらうというより、希望・夢を持った学生を集めたいという事があるために、実績を残すことも当然ですが、学生のレベルを少しでも高め、本物のスポーツトレーナーになるために必要な知識とテクニックを教えていきたいと思います。

高校生や大学生より、現にスポーツトレーナーの現場で働いている方々より、「できれば自分が先生の学校に入りたいのですが・・・」という話をよくお聞きします。そんな方々のために、3ヶ月間の短期の講座も用意しました。5月から月2回のペースで行いますが、今から楽しみにしています。

おそらく最初は数名しか受講されないと思いますが、その分密度の濃いものにしたいと思います。ひょっとしてマンツーマンになるかもしれません。

さて、今回は素晴らしい本を見つけましたので紹介したいと思います。何気なく書棚を見ていたら、ニコライA.ベルンシュタイン著「デクステリティ 巧みさとその発達」(金子書房2003)という本が目にとまりました。いつ購入したのか全く覚えがなかったのですが、目にとまりました。

ベルンシュタインという名前があったことから、コーディネーション関係の本かと思ったのですが、「デクステリティ」ということばは、聞いたことも見たこともありませんでした。その「デクステリティ」が英語(dexterity)で、巧みさを意味することがわかり、これは面白そうかなと思って読み始めました。

著者のベルンシュタインは、コーディネーションにところで、ドイツのマイネル、シュナーベルとともによく出てくるし、一度著書があれば読んでみたいと思っていたので、なぜか興味が湧いてきました。

最初から読み進めるうちに、「巧みさ」の意味がよくわかりました。その反面、私はこれまで「coordination」を調整力、身のこなし、技術、スキル、テクニックなどと理解していたのですが、「巧みさ」はそれらとは全く異なるものであることが分かり、恥ずかしい気持ちになりました。

「巧みさ」を正しく理解していくことは、本当のパフォーマンスの向上につながることであると認識しました。この本は、何度でもというより、何度も読み返す必要のある本だと思います。また、この本が書かれた背景や出版にいたる経緯を知れば、さらにこの本の価値も分かるはずです。

まず、訳者のあとがきから出版の経緯を紹介したいと思います。読みやすくするために、少し修正しました。

『コーディネーションのところで出てくるロシアの生理学者ニコライ・アレクサンドロヴィッチ・ベルンシュタインが一般向けに書いた運動の巧みさに関する科学書です。本書が書かれたのは、約半世紀前。ソビエト社会主義共和国連邦をスターリンが統治していた時代です。

ベルンシュタインはそのころソ連邦中央労働研究所バイオメカエクス班の室長として精力的に研究を推進しており、1947年には専門書「動作の構築について」を上梓しました。解剖学的、生理学的なレベルと動作の関係を具体的に論じたこの本は、動作障害の治療に携わる外科医たちにとって福音の書となり、ベルンシュタインはこの功績を称えられて国家賞であるスターリン賞に輝きました。

時を同じくして、ベルンシュタインは一般向けの科学書である本書を執筆しました。

原稿は出版社へ提出され、イラストも完成し、校正を終えてあとは最終印刷を待つばかりとなったのですが、そのとき、事態は急変しました。ロシア国粋主義政策の台頭に伴い、国内で反ユダヤ主義がわき上がり、ユダヤ系知識人は、「祖国の地に根をもたぬコスモポリタン」として攻撃されたのです。ユダヤ人であったベルンシュタインも、徐々に立場が危うくなってきました。

この状況をさらに悪化させたきっかけが、ベルンシュタインのパブロフ批判です。条件反射説に真っ向から異を唱えたベルンシュタインは、パブロフを貶(おとし)める非国民的研究者として共産党の機関誌「プラウダ」誌上で公然と批判されるまでになってしまったのです。栄えあるスターリン賞の受賞から一転、ベルンシュタインは解雇され、本書の出版は取りやめになってしまいました。

その後ベルンシュタインは、職を失いながらも机上での研究を続け、活動の生理学〈physiology of activity〉を体系化しました。しかし、お蔵入りになってしまった原稿については一切言及することなく、家族も友人もその原稿については何も知らされていなかったようです。

遺稿が発見されたのは、ベルンシュタインの死後すでに20年もの歳月が過ぎてからのことでした。引っ越し前の本棚をかつての同僚であったフェイゲンベルグが整理していたとき、本棚と天井との間にある隙間から、実験用の感光紙の表裏にびっしりと書かれた手書きの原稿が見つかったのです。

ベルンシュタインが執筆していた時代、紙は貴重な資源であったため、原稿には、実験に用いた紙を、再利用していたそうです。

ロシアでは、1985年に樹立されたゴルバチョフ政権によって、ペレストロイカ(改革)路線へと政策の転換が図られ、グラスノスチ(情報公開)の推進によって、月刊文芸誌「ノーブイ・ミール」に、ソルジェニーツィンの「収容所群島」が掲載されるまでになりました。

同時にベルンシュタインの研究業績も再評価され、本書も科学の古典シリーズの一冊として1991年ナウカ書房より出版されました。その英訳が1996年に出版されました。執筆から半世紀を経た硯在、その内容は色褪せることなく、今なお輝きを増し続けています。』

次にベルンシュタインの思想について、次のように紹介されています。

『ベルンシュタインは、1896年、モスクワに生まれました。父は、高名な精神科医、母は看護婦、祖父はヒルベルト問題に関わった数学者でした。モスクワ帝国大学の医学部を1919年に卒業し、市民戦争には赤軍の外科医として従事しました。

この経験が、後の著書「動作の構築について」を執筆する重要な契機になりました。本書においてもまた、戦時下でのエピソードが数多く語られています。復員後、中央労働研究所のバイオメカニクス研究室の室長となり、「巧みさ」に関する生理心理学的研究に携わることになりました。

ベルンシュタインが研究の対象としたのは、豊かで多様な現実世界の中で行われる生き生きとした活動でした。たとえば、鍛冶屋がハンマーを繰り返し振り下ろす動作を観察すると、ハンマーの軌跡は毎回異なっているにもかかわらず、ハンマーの頭は毎回ほぼ同じ場所に打ち付けられる。

当時、最新鋭であった動作解析装置を用いてこの観察をしたベルンシュタインは、動きの変動を誤差として扱うことなく、適宜性の発現として捉えました。ハンマーを正確に振り下ろす背景にあったのは、同一動作の再現ではなく、多様で柔軟な動作による機能の実現、すなわち、その場に適応的な動作の創造であったということです。

ベルンシュタインはまた、運動学習における反復練習の意味を見抜いていました。すなわち、「繰り返しは、機械のように同じ動きを再現するために行うのではない。

繰り返しの目的は、課題解決のプロセスを反復することにより、よりよい解決策を編み出す能力を獲得することに他ならない。学習の目的は、過ぎ去りし過去の再現ではなく、来るべき未来への準備である。このことは同時に、多様な解決のプロセスを含まない反復練習は、適切な運動の学習につながらないことを意味している」ということです。

世界は時々刻々と変動している。「変化に満ちた環境の中では、ある瞬間に「最適」であった動作でも、次の瞬間にはその場にそぐわない不適切な動作になり得る。したがって、ある一定の運動パターンを記憶し、固定するという運動問題の解決方法は、多様な環境の下ではむしろ不利益をもたらすことになる。

動作にとって、予期せぬ新奇な状況に置かれたときに必要となるのは、記憶しておいた動作をそっくりそのまま再現する能力ではなく、その状況に適した新たな動作をその場で創り出す能力である」。

このような考えが、同一の刺激に対して同一の反応を繰り返すことが学習につながると考えるパブロフの条件反射説とは相容れないものであることは明らかです。反射を基礎においた運動理論を唱えたのはパブロフだけではありません。

イギリスの生理学者チャールズ・シェリントンもまた、優れた神経生理学的実験を行い、反射の連鎖を基礎にした運動理論を築き、シナジーの概念を提唱しました(Sherrington、1906)。

一方でベルンシュタインは、反射は運動問題の解決ではなく、むしろ解決すべき運動問題の一部であると考えました(Bernstein、1967)。反射に代わる解決策としてベルンシュタインが提唱したのは、協応の原理です。少数自由度による大自由度系のコントロールを可能にするこの概念は、その後の自己組織化理論(Nicholis & Prigogine、1977)やシナジェティクス理論(Haken、1978)の萌芽ともいえる先駆的なも

のであり、ダイナミカルアプローチによる運動制御の理論化(Kelso、1995;Kugler & Turvey、1987)、および様々な実験的運動制御研究に今なお多大な影響を与えて続けています。』

長くなりましたが、本文の第Ⅰ章の巧みさとは何かというところで、巧みさの概要について次のように書かれています。

『身体文化の旗印のもと、一般に心理物理学的な能力とされる4つの概念が生まれた。力強さ、スピード、持久力、そして巧みさである。

これら4つはそれぞれ性質が異なる。

力強さは、実質的には純粋に身体の物理的な特性である。力強さは筋の太さや種類に直接左右され、他の要因からは二次的な影響しか受けない。

スピードは、より複雑な特性であり、生理学的な要素と心理学的な要素を併せもつ。

持久力はさらに複雑である。これは身体のあらゆる下位システムおよび器官が協力しあってはじめて成り立つ。持久力には、作業に直接かかわる器官、運搬系(必要なものを供給し、老廃物を排泄する循環系)、供給器官(呼吸、消化吸収系)、さらには高次の意図と制御を担うすべての器官(中枢神経系)が関与し、これらの代謝が高いレベルで協力しあわなければならない。

実際、粘り強い身体は持久力の3つの条件を満たしている。第一に、必要なときに消費するエネルギーの十分な蓄えをもっていること。第二に、ここぞとあらば必要に応じて惜しまずエネルギーを供給できること。

第三は倹約に努め、エネルギーをできる限り長いあいだ有効に利用することである。持久力をもつということは、要するに、潤沢な資金をもち、出し惜しみも、無駄使いもしないということだ。この能力が身体全体の複雑な組織化によって成り立つことは明らかであろう。

複雑であることについていえば、巧みさはさらに上をいく。物理学的にも心理学的にも巧みさに何が含まれるのかほとんど説明のしようがない。とはいえ、少なくとも後述するように、巧みさとは制御の機能であり、巧みさの実現には中枢神経系が最大の役割を果たす。

巧みさは、さまざまな点で他の3つの能力とは異なる。巧みさは他の能力に比べて、より柔軟でより汎用的である。巧みさは世界共通の通貨のようなものだ。トランプで言えば切り札のジョーカーといったところだろう。』

『では巧みさとは何なのか? それを理解するために語源を遡ってみよう。巧みさ〈lovkost〉〔英語ではdexterity〕は、猟る〈lov〉という語根からの派生語である。もともとの意味は、狩りや、罠猟や、釣りに関係していた。狩人は以前、猟師〈lovtsy〉と呼ばれていた(「ビーバーのいるところ猟師あり」、「獣も歩けば猟師にあたる」などの諺でおなじみだ)。

ビーグルなど狩りに用いる犬はもともと猟犬と呼ばれていた。狩りのために訓練されたタカやハヤブサなどの鳥は、かつて猟鳥と呼ばれていた。これらの動物が獲物を見つけ出し、獲物の行く手を遮り、飛びかかって捕まえる能力は猟りのスキル〈lovkost〉と呼ばれていた。

時が経つと言葉の意味が広がり、人間の能力をも含めるようになった。しかしもともとの意味は変わっていない。巧みさは今日でも人間の身体運動のすばやさ、敏捷性、柔軟性、スキルの高さを示す。

巧みさはV.ダーリのロシア語辞典ではじめて定義された。

ダーリの定義では、巧みさを「動作の調和」と考える。おそらくこれが最も厳密な定義であろう。たしかに動作の調和は、跳んだり、自転車か何かに乗ったり、走ったりするときにもあてはめられる。腕や脚や体幹のそれぞれの動作を調和させ、全体として一つの動作へとまとめあげ、望んだ結果をもたらす能力こそが巧みさである。

ブラズーニンが引用しているダーリの定義に私は賛成しかねる。「動作の調和」は一般的によく協応した動きの特徴ではあるが運動のすぐれた協応と巧みさとは別物だ。優れた競歩の選手になるには理想的な動作の協応が必要である。

だがそこに巧みさはあるのだろうか? 完全なる全体の協応つまり「動作の調和」は、短距離走者や、水泳の長距離選手や、新体操の団体選手には必要かもしれない。しかしこれらの競技に巧みさは当てはまらない。「彼は巧みに1000m走り抜きました!」とか、「彼女は巧みに長距離を泳ぎました!」などという文中で巧みさや巧みという単語は誤用されている。』

ぜひ一度といわず、何度も読んでください。私の2度目に入っています。アセらず、ゆっくり読み進めたいと思います。スポーツの指導の面で必ず役立つというより、その基本がかかれたものであるという理解をすべきものだと思います。これほどの内容が1940年代に書かれたとは、驚嘆するしかありません。7章からなるものですが、すべての章が面白いし、もっとゆっくり読みたい、そして少し難しいけれど理解していきたいと思える本でした。

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