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セロトニン神経|ニュースレターNO.137

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年が明けたと思っていたら、あっという間に2月になりました。この速さは毎年加速している感があります。平成スポーツトレーナー専門学校の方は、入試も後半に差し掛かっています。特に専門学校に在学中の学生や、卒業された方からもっとスポーツトレーナーについて本物を学びたいとうれしい入学希望者が増えています。

こんな学生を待っていました。本物を学びたい、何が本物か知りたいと本当に思う方は少ないものです。自分の目の前にある現実に惑わされ、変に納得してしまっている方が多いようです。実践の社会に出て、何もできないことに気づくのですが、そこではだれも教えてくれません。

というより、きちっと教えられる人がほとんどいないといったほうがよいかもしれません。ほとんど、自分自身のごまかしになっていることが多いように思います。本物を学びたい方にぜひ入学していただきたいものです。

さて、「セロトニン」ということばを聞かれたことはあるでしょうか。たとえば、「調子がよかったのに、突然からだが動かなくなり、やる気も起こらず、なかなか立ち直れない」。こんな経験は、ハードなトレーニングを積んでいる選手によく見られる現象です。

紛れもなく、それはオーバートレーニングであり、「泥沼に足を突っ込んだ状態」そのものです。そのまま泥沼から這い出せずに、競技をリタイアする選手も少なくありません。このような状況にセロトニンは大いに関係しているようです。また競技で最高のパフォーマンスを発揮するために不可欠な平常心は、セロトニンを放出するセロトニン神経が興奮を適度に抑えることで可能になるそうです。

今回紹介する有田秀穂、高橋玄朴著「ここ一番に強くなるセロトニン呼吸法-スポーツらスピーチまで」(地湧社2003)の中で、「スポーツとセロトニン」について著者の有田氏と筑波大学の征矢氏との対談が紹介されています。

その対談の中に、オーバートレーニングを防ぐためにどのように対処すればよいか、そのヒントが示唆されています。現場を思い浮かべながら読んでみると、日頃のコンディショニングとしてどのようなことをやればよいのか理解できると思います。

著書の前半には、セロトニンの働きについて詳細に説明されています。セロトニンについては、何冊も出版されていますが、この本が一番わかりやすいように思います。興味のある方は、ぜひお読みください。

『有田:最初に私の「セロトニン仮説」から説明させていただきますと、「スポーツの中でも特にリズムを刻む運動を継続して実施するとセロトニン神経の活動が上がっていく。

その結果、メンタルな面では鬱(うつ)の状態からハイになるし、自律神経の働きも運動に適する変化をする、筋肉に対しても促通効果を与えるというように、心身を元気にする効果がありますよ」というものですが、この仮説について、実際に運動の面で神経科学的に研究されている先生から、コメントをいただきたいと思います。

征矢:リズミカルな運動にはいろいろありますが、より身近でシンプルなものをあげればウォーキング、ランニング、ジョギングなどがあります。これらの移動運動はサイクルが一定のリズムで刻まれることから、リズム運動ともいえるのです。実際世界中はもちろん、日本でもジョギングの人口は増えつづけていますし、最近ではウォーキングの人口がランニング以上に増えています。

その背景には、運動をした後に非常にいい気持ちになるということがあると思います。例えば、抑うつをとって元気にしてくれる。快感を高めてくれる。あるいは、ヨーロッパの人たちが歴史的に行ってきたように、運動中にいろいろな思索ができる。さらに、運動をした後は集中力が増して仕事がはかどるということがあると思います。

それは私個人も経験していますし、多くの人が認めているからこそ、こういうブームがあると思います。

その中で、セロトニンはどうなのかということですけれども、セロトニンは、適度な量が増加することで、脳の覚醒レベルを維持したり、集中力を高めるなどの作用のあることが知られていますが、非常に激しい運動をして疲労した状態では、セロトニンが増えすぎてしまって疲労感が高まり、運動の持続が困難になるという説もあります。

有田:先生はラットにランニングさせる実験をされていますが、その場合セロトニンは、運動の強さに応じて増えてくるといっていいわけですね。
征矢:そうですね。ネズミの場合ですけれども、ゆっくりした歩みから、走るまでいろいろな速さで30分間走らせます。

すると、弱い運動ではあまり変化しませんけれども、ジョギングを超えるようなスピードですと、だんだんセロトニンの代謝が高まってきます。脳の中でも利用が高まって、セロトニンが活躍していることが見て取れます。さらに激しい運動で疲労困憊にまで行きますと、脳の中にセロトニンがさらに増加してきます。

セロトニンが疲労と関係があるのではないかということがいわれているのは、こうした動物実験の結果があるからです。しかし、セロトニンは脳を興奮させ、集中力を高める、さらに筋緊張を維持するうえでの機能として重要と考えられており、運動の持続にとって必要な機能を担っているものと考えられます。

つまり、運動による疲労時にセロトニンが増えるからといって、疲労の「素」と考えるのは早計です。セロトニンが増えても機能しない場合もありうるからです。

有田:先生は、疲労物質である乳酸によるセロトニンの変化についても研究を始められていますが、乳酸はセロトニン神経の機能低下に関与するという仮説がありますね。乳酸は実際に脳内で増えるのでしょうか?

征矢:血液中で乳酸の量が非常に増加して普段の十倍とか二十倍になると、脳の中にも大量の乳酸が増える可能性は十分にあります。これまでのところ、血液中の乳酸は脳関門を通りにくいことから、脳に反映されにくいといわれてきましたが、最近我々は、海馬など脳の中で、乳酸の濃度を運動時に経時的にモニターすることに成功しました。

そして、運動の強度が上がれば上がるほど乳酸が増加するという結果、並びに走運動時に増加した乳酸はすべて脳内で作られることなどをつきとめています。どうも脳内のグリア細胞という神経以外の細胞が供給しているようです。最近の研究では、脳内ではストレス時や学習時などに増加する乳酸は、神経の主なエネルギーであるブドウ糖を補佐する重要な役割をもつことがわかっています。

ところが、動物の頚動脈などを圧迫するなどして脳への血液の流れを阻止すると、極めて高いレベルの乳酸が脳内で増えることも知られています。増加しすぎる場合は問題です。

いま有田先生が言われたのは、「高濃度の脳内乳酸はセロトニン神経の機能を低下させる」というクラインらが提唱した仮説ですね。

有田:精神科医のクラインらが、パニック障害の患者の状態を説明するために提出したものです。精神科の先生方は、パニック障害の疑いのある患者さんを診断するときに、乳酸をわざわざ点滴してパニック発作の状態になるかどうかを調べてきました。つまり運動をさせないで乳酸によって疲労をした状態を作るのです。

こうすると、パニック障害がある場合は、かなりの確率でパニック発作を起こします。体の中ないしは脳の中に乳酸が蓄積すると、不安を調節できなくなってしまうことを利用した診断方法ですね。一方、パニック障害の治療薬としては、セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)と呼ばれているものがあるわけですが、これを使うと脳の中でセロトニンが増えます。

これは今アメリカでも日本でもよく使われています。このことからも、セロトニンの働きが低下することでパニックが起こるというメカニズムが示唆されます。そういうことからクラインたちは「乳酸がセロトニンの神経伝達物質としての働きを抑えて、パニック発作を誘発する」という説を唱えたわけです。

先生が今言われた、激しい運動を続けていると乳酸がたまって心身共に疲弊してしまう、元気がなくなってしまうということは、そういう仮説から説明できるかもしれないわけですよね。

征矢:疲労困憊にいたる激しい運動でどうなるか、はっきり確かめられているわけではありません。しかし、教科書的には血中の乳酸濃度が10ミリモルを越えれば疲労困憊とみてよいとされており、実際に陸上競技の800m走では、血中乳酸値が19ミリモルに達することもわかっています。

激しい運動時には血中の乳酸も脳に移行して、過剰なレベルに達し、それによりセロトニンなどの機能が阻害されるということはありうるかもしれません。一方、慢性的な疲労になった場合には、うつ病とまったく同じにセロトニンがどんどん低下していますね。

その場合には、SSRIのようなセロトニンの再取り込み阻害剤を打つことで、セロトニンの効果を高めると元気になっていきます。

有田:うつ病で自殺した人の脳内のセロトニンのレベルが非常に低いことは、はっきりと認められていますね。セロトニンのレベルが下がってしまうことと、うつは相関があることは、まずまちがいないと思いますね。

征矢:実は、私はある実業団のランニング選手のコンディショニングに携わって五年くらいになります。選手の中に、駅伝の中心選手で、精神的に強く、パフォーマンスももっとも良かった女子マラソン選手がいました。ところが彼女はうつ病になってしまいました。

ある試合をきっかけにして、走れなくなった。ジョギングさえもできなくなって、内科、外科的な治療をやりましたけれども、まったく効果がなかったのです。最終的に我々が精神科と組んで治療に当たったところ、三環系の抗うつ薬が非常にうまく効いたのです。

有田:三環系の抗うつ薬は、セロトニンの再吸収を阻害してセロトニンのレベルを上げますね。その女性の場合、マラソンをしてセロトニン神経が活性化されていた、としますよね。ところがやりすぎると今度は逆に落ちてしまう。

征矢:非常にパラドキシカルですけれども、トレーニングがうまくいっていたときはセロトニンによって頑張れたわけですね。しかし、やりすぎてしまうと、セロトニンが活躍できなくなって元気がなくなり、競技成績もガクッと落ちますし、最後には走れなくなる。

抑うつ、あるいはうつ病にさえなってしまう。こうした症状はスポーツ選手に典型的な疲労症状でもあります。専門的にはオーバートレーニング症候群と呼んでいます。これは、回復するのに何年もかかったりします。

有田:オーバートレーニングの状態になると、なぜセロトニン神経の働きが落ちてしまうかというと、一つは先ほどから話題にしている乳酸ということが考えられますね。

征矢:短期的にはそうかもしれません。

有田:ただそれだけでは、説明がつかない。

征矢:つきません。

有田:ジョギングなりマラソンなりを続けていると、例えばセロトニンの受容体が変わるとか、なにかそういう別の面での変化を起こしていることも十分に考えられますね。

征矢:そうですね。

有田:乳酸に加えていろいろなストレス関連物質、そういうものが、セロトニン神経の本来もっていた役割を落としてしまうこともあるわけですね。もう一つ考えられるのは、セロトニン神経の特徴として、自己抑制という機能があるのですね。セロトニン神経をどんどん活性化していくと、自分が自分を抑えてしまうという、そういう働きがあります。

リズム性のトレーニングを始めた人や坐禅の呼吸法を始めた人たちが、「トレーニングを始めてしばらくすると、逆にうつ状態になってしまう」とよく言われるのですが、それが原因だと思われます。そのとき鬱の状態を通り越すと、以前よりも良くなるのです。そういうメカニズムがセロトニン神経にはあるのです。

征矢:それは、動物実験で自己抑制の受容体(オートレセプター)が変わったという結果がありまして、十分に考えられます。

有田:これは、例えばオートレセプターが変化するには一か月とか二か月という比較的長い時間がかかりますので、最初はいい調子でやっていたのに、なにか急にガクンときてしまう。何だかわからないけれども、元気がなくなる。ところがそこをわかっていて、突き抜けるとまたいいレベルに上がっていきます。

経験のある人はいいのでしょうけれども、経験のない人の場合にはかなり問題になるというか、果たしてこのままでいいのだろうかと、非常に悩むことになりますね。ですから、乳酸、ストレス関連物質、セロトニンの自己抑制という機能、そういういろいろな要素が絡んでガクンとスランプに陥ってしまうことが考えられます。

つまりそういう要素はみんな、セロトニン神経を抑える方向に働いているからであろうと言っていいわけですね。

征矢:そうですね。元気にリズミカルに、気分を良くしたり、集中力を高めるという効果にセロトニンが関わっている可能性が十分にある一方で、極端に激しい運動に耐えているときにセロトニンが必要以上に出ているかもしれません。

そして激しいトレーニングによって、結果的にセロトニン機能が駄目になって、まったくパフォーマンスが低下してしまうという、非常に矛盾したことも起こりうるということですね。まあ、セロトニンだけではないにしろ、セロトニンがかなりそういうことに貢献している可能性はあります。

実際にマラソン選手がうつ病になってしまったときに、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質やホルモンの量を変えることでうつ病の症状が改善されるという場合があるので、先生のおっしゃることは十分にありますね。

有田:その場合に、どうしたらいいのだろうかという問題がありますよね。どうやって克服したらいいのか。もちろん、乳酸が原因であればある程度休めばいい。

ストレスだったらストレスを何とか切り替える。いろいろあると思うのです。それを考えるとき一つおもしろいのは、シドニーオリンピックの女子マラソンで優勝した高橋尚子さんへの小出義雄監督の取り組みです。あの方の話をテレビなどで聞いていますと、非常にポジティブ思考なのです。

疲労したこと、疲れて嫌なこと、ネガティブなことを逆に発想転換をしてポジティブに変えていくのですね。

今先生も言われたセロトニンとノルアドレナリンの関係は、ストレス、不安との関係ですけれども、セロトニンはもうひとつ、ドーパミンと関係していますね。

ドーパミンは、どちらかというとやる気を起こさせる方向の神経で、これが活性化してくれると、セロトニンの低下とノルアドレナリンでどうしようもない状況になっている場合、それをするりと突き抜けられるというか、克服できるということになると思われます。

小出監督のあの発想の転換が非常に重要なことでしょう。これからつらい、上り坂だ、30キロも過ぎてどうしようもない、そういうときに、発想の転換が支えてくれるということなんですね。あの発想は、乳酸の発生でセロトニン神経がうまく働かなくなったときにはセロトニン神経をたたくのではなくて、むしろ、別の神経に切り替えてしまうということになると思います。

これは一つのかなりすぐれた方法ではないかと思いますが、先生がいろいろなストレスとの絡みで、脳内物質それからホルモンというものを見ていったとき、処方としてはどういうことが考えられますか?

征矢:今の先生のお話は非常に興味深いところです。やはり運動をしていて不安になるということがあるのですね。マラソンのように長距離ランニングでも、相手に突然スパートされたりしますとビビってしまいます。そうすると、乳酸が増えます。

予期しないことが起こったときに非常に強く起こります。スパートを事前に予測して、自分で対応する場合はいいのですけれども、突然それが裏切られたというか、予期しないタイミングでスパートされると自分のスピードが落ちてしまうのですね。

そういうときはたぶん疲労も高まると考えられます。ペースも変わりますし、これはパフォーマンスを低下させます。おそらくは気分や感情の中で、「不安」は非常にネガティブに働くのだと思います。

最近私は筑波大の陸上部監督の尾縣貢先生と共に、『中長距離ランナーの科学的トレーニング』という本を訳したのですけれども、世界記録を十年以上更新しつづけたセバスチャン・コー選手のトレーニング方法の中には、突然の予期しないスパートに備えるためのトレーニングというのがあるのです。ランナーをイーブンペースでずっと走らせていきます。

それでピストル音を聞いたらパッとスパートさせるというトレーニングです。いつピストルが撃たれるかわからないわけですが、これに対応できない選手は駄目なのですね。日本ではそういうことをあまりやっていないのではないかと思うのですが…。

有田:先生の話を聞いていて思いついたのは、セロトニン神経のもつ一つの特性は、予期せぬ出来事で抑制されてしまうことです。そこがきっかけになると思うのです。パンと音がしたとか、相手の急なスパート、そういう予期せぬことが、セロトニン神経がせっかく頑張っていたのにそれを抑えてしまう。

征矢:そうすると、乳酸も増加するし、セロトニンも切れる。結局は元気が出なくなってしまう。

有田:予期せぬことというのは、すごく重要かもしれない。

征矢:それがきっかけとしてね。先ほどの先生の処方についての質問に戻りますけれども、結局は心のもちようだと思うのですね。心理的にはポジティブシンキングという概念がありますけれども、いかに自分で主体的に取り組むか、これは運動だけではなはなくて学習などでもすべていえます。

仕事に関しても運動でも、自分自身でこうやっているのだという自覚をもちながらやることが、不安を取り去るための一つの条件ではないかなと思います。

あとは、軽い運動でも十分ストレスを軽減できるという心理・生理学的なデータがいっぱい出ています。例えば体をちょっと揺り動かす体操(「ゆる」など)とか、あるいはリズム体操などがあって、いろいろな器具を使ったり大きなボールを使ったりして、ゆっくりと体を動かしながら、リズミカルに動かしながら姿勢を変えることによって、すごく気分が好転する。

有田:そうですね。リズム運動がメンタルに影響するということ、そこがポイントですね。

征矢:これは、子どもたちの情緒教育などにも使えます。阪神淡路大震災のときに、多くの子どもたちが精神的に大きな打撃を受けました。そのときに、リラクセーションがずいぶん役に立ったようです。それは、結局「軽運動」でもあるのです。何をやるかというと、呼吸をまずリズミカルに確保しながら、呼吸を中心にして軽い運動をさせるのです。それによって、短期的にも長期的にもだんだんにリラックスが図れるようになる。

これで多くの成果を収めたということを聞いています。それと同じように、スポーツ選手でも、そういう軽運動をしたり、気分転換的にいろいろな運動をやることで、肉体的疲労感だけではなくて、精神的に疲労をとってリフレシュして、また次のトレーニングにつなげることはできると思います。

ところで、リフレシュするためにはスポーツ選手の場合には、あまり走らない方がいい。普段走っていますから。自分がいつもやっている運動以外にリズミカルな軽運動をトレーニングの中に積極的に取り入れていくことが非常に重要だと思います。

有田:疲労しない程度のリズミカルな運動は、心の面にも、体の自律神経の働きの面にも、筋肉にもいい。だからそういう運動を組み込んだ積極的休養をとることが、激しい過度な運動などでオーバートレーニング症候群やうつ病などになるのを予防するということですね。

征矢:そうですね。』

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