なぜ年をとると速く走れなくなるのか|ニュースレターNO.264

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Sportsmedicine 2011 No.129に「歳をとると速く走れなくなる理由」と題した投稿記事が掲載されていました。著者は東京大学名誉教授の宮下充正先生でした。日ごろそれなりに練習していても加齢とともにパフォーマンスが低下して行きます。その原因は、単に加齢によるものなのか、それとも筋力が低下して行くからなのか、そんな疑問はだれしも持っていると思います。

加齢とともに、動作が遅くなってくるのは明らかで、動きが遅くなり始めるのは25歳からだと言われているようです。加齢にともなう記録の低下率は、スプリント走よりも長距離走でより明らかで、競泳でも同じ傾向がみられると言われています。宮下先生はドイツとイギリスの研究(歳をとったランナーはなぜこれまでより遅くゴールするのか)から、いくつかの研究をまとめ報告されていますので紹介したいと思います。

「走るなどの移動運動のスピードが増加すると、移動するときに受ける空気や水の抵抗と消費される生理学的エネルギーは、直線的ではなく曲線的に増加する。このことは、1930年代のKarpovichやOgasawaraなどの古い研究報告を参考にするまでもなく明らかである。

したがって、加齢にともなって、移動するスピードがどのように変化するのかは、パワーという次元で比較するのが適当であると述べ、Arampatzisたち(2011)は、100mスプリント走とスプリントサイクリングの単位体重当たりのパワーの40歳から65歳にかけての低下割合を図1のように示している。

中略

興味深いことに、機械的パワー発揮の生理学的効率は25%ぐらいであることから、サイクリングでの最大無酸素パワーの値を4倍すれば、走運動の生理学的パワーの値に近くなるとArampatzisたち(2011)は指摘している。そして、このように加齢にともなう移動運動での遅くなる傾向は、動作様式が異なるスポーツ種目で同じであることから、その背景に共通した理由があると思われると推測している。

そこで、スプリント走のスピードに焦点を当てて具体的に解説してみたい。走スピードは、ストライド頻度(1秒当たり何歩か)とストライド長(1ストライドの長さ)とを掛け合わせたものである。ストライド頻度もストライド長も走り始めてからの時間あるいは距離によって変わるが、Arampatzisたち(2011)は、マスターズ・スプリンターは若いときのストライド頻度を保持しているが、ストライド長が短くなってくるので、速く走れなくなると述べている。

このように、ストライド長が短くなってくると、着地期のブレーキ力と推進力が弱くなるし、それは筋肉の発揮する力が減少するためであろうと、Korhonenたち(2006)の研究結果を引用し説明している。

このストライド長が短くなる生理学的理由として、タイプⅡ筋線維の萎縮によって、マスターズ・スプリンターの最大筋力と筋力発揮スピードが低下、そして、弾性エネルギーの備蓄が減り、その弾性エネルギーを短縮性筋力発揮に生かせる量が少なくなるというCavagllaたち(2008)の報告を参考にしている。」

「最大努力での発揮筋力と筋収縮スピードとの関係は双曲線となり、筋力×筋収縮スピードで得られる筋発揮パワーは、ある一定の収縮スピードのとき最大となるという、Hillが提示した有名な図を引用して、Arampatizsたち(2011)は、筋線維タイプと筋萎縮の影響を図2のように説明している。

図2のAは、筋線維のタイプⅠ(破線)とタイプⅡ(実線)とを比べたものである。タイプⅡ線維はより速い筋収縮スピードで、タイプⅠ線維の3倍以上の最大筋力が発揮できることを示している。したがって、1970年代いろいろなスポーツ選手の太ももの筋線維タイプを比較したSaltinたちが報告したように、スプリント走選手のタイプⅡ線維数の割合は、長距離走選手に比べ明らかに多いのである。

図2のBは、Larson(1978)やLexellたち(1988)の報告から、加齢とともにタイプⅡ線維の25%が死滅する、あるいは、萎縮することによって、発揮できるパワーが減少することを示している。したがって、Sarcopenia(筋肉減弱症)が、加齢にともなう発揮パワー低下の大きな原因といえるとしている。」

「地面からの反作用の大きさを決める重要な要素は、脚の伸展筋群が発揮する力であることはいうまでもないが、この筋群が発揮する力とパワーに対して、腱がかなり大きな影響をおよぼす。この腱の役割をArampatizsたち(2011)は、次の3つをあげている。

①エネルギーの備蓄とその再利用、②筋力発揮スピードと骨格への伝達、③筋力と筋パワー発揮能力、である。というのも、筋肉と腱は直列につながっているために、筋力・筋長・筋収縮スピード関係に影響するからであると述べている。そして、Medemliたち(2008)の研究結果を引用して、下肢の腱の硬さと下腿三頭筋の筋力は、加齢とともに30%近く低下する。

このため、推進力、ストライド長、そして、走るスピードが減少するとしている。同じように、大腿四頭筋の筋力と腱の硬さがともに低下するために、スプリント走の成績に影響をおよぼすと指摘している。このように、加齢にともなうスプリント走の成績(スピード)におよぼすのは、筋・腱というユニットであると結論している。」

「下肢の筋群の最大筋力の低下、筋力発揮スピードと伝達効率の低下、腱における弾性エネルギーの備蓄と再利用の減少、の3つが走る最高スピードの低下の要因である。もちろん、下肢にある下腿三頭筋とアキレス腱、大腿四頭筋と膝蓋腱などいくつかの筋・腱ユニットの影響の程度は、それぞれ異なる。

しかし、筋量の減少、筋収縮特性の退行が、走スピードの加齢にともなう低下の主要なカギとなっていることは確かである。他方、神経・筋系と筋・骨格系の可塑性は、合理的なトレーニング法によって適応できることが明らかにされていて、加齢にともなう走スピードの低下を抑える可能性があるといえる。

しかし、スプリント走能力を維持するトレーニングは、疲労からの回復や損傷した組織の修復に加齢とともに時間がかかるようになることから、競技会へ出場するマスターズ・ランナーたちにとっては頻度や継続時間が少なくなる。そして、結果的にトレーニングのいわゆる“オーバーロードの原則”の維持が次第にできなくなるのである。

このことが加齢にともなう走能力の低下をもたらすもっとも確かな理由であるし、トレーニングを無理して遂行すれば運動器に障害が生じ、競技会参加を断念せざるを得なくなってしまうだろう。」

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