末續慎吾の走り方|ニュースレターNO.074

高岡英夫氏のホームページを見ていたら、興味深い記事を発見しました。それは、今年の日本陸上選手権で、200mを今季世界最高の20秒03で走った末續慎吾選手の走り方についての解説です。

先般のニュースレターでは、二軸理論なるものも少し取り上げましたが、なかなか面白い解説がなされていました。所々むつかしい用語も出てきますが、参考になる解説だと思います。今回はその一部を紹介します。

解説は、末続選手の走りがグニャグニャに見えるのはなぜかということと、どのように推進力を得ているのかということ、そして「空中脚腰下垂」の働きのところだけピックアップしてみました。

図についてはここでは紹介できませんが、じっくり読んでいきますと非常に奥深いものを感じることができます。

 

末續選手の身体がグニャグニャしているわけ

ここからじっくりと末續選手のグニャグニャの身体とパフォーマンスの関係を運動科学の力を使って解き明かしていきましょう。

図A、図Bは水戸国際陸上の100mで10秒03を出した時の彼の写真を線画に起こし、説明のためのラインを描き入れたものです。

図Aは右足が接地する寸前、図Bはその逆で左足が接地する寸前で、実際の彼の走りでは図Aと図Bの状態が交互に表れます。これらを見ると一見して彼の身体がグニャッとしているのがわかります。

彼の身体では・で示したラインに導かれて、左右にうねる波動が起きていることがわかりました。両肩関節のすぐ下を結んだ線、両股関節を結んだ線です。

彼が肩と腰で挟み込んだ部分を一歩ごと左右交互に閉じたり開いたりして走っているということです。

私はこの動きを「肩腰交互開閉」と呼んでいますが、これも彼の身体が左右の波動運動を起こしていることを示すものです。

ということで、末續は身体を左右に波のように動かしているために、肩と腰の間が左右交互に開閉している。

その結果グニャッとした印象になることはおわかりいただけたと思いますが、その動きは完全に左右対称ではありません。

図Aに比べて図Bはかなり右に片寄っています。頭にかかる波も強く右寄りになっているために、首が右にかなりかしいでいます。

完全に左右対称なら・も図Bでは右肩が上がるべきですが、僅かに下がったままです。つまり彼の走り方は左右アンバランスなのですが、この点については後ほど考察することにして、まずは・の波動のラインから考えられることについて話をします。

 

「ちょっと接地しただけで自然に前に進む」理由

このトカゲ型、すなわち左右にグニャグニャする波動運動と前後の推進力との関係について説明します。

まず、図A、図Bを見てください。浮いている方の脚、すなわち空中脚(図Aでは左脚、図Bでは右脚)の股関節を見ると、接地しようとしている脚、接地脚のそれより下がっています。

私はこの現象を「空中脚腰下垂」と呼んでいます。空中脚の股関節が接地脚のそれよりこれほど長い間低いままというのは大変珍しいことです。

図Cの朝原選手を見てください。これは図Bと同じ局面ですが、彼の場合はほぼ完全に肩の線と腰の線が水平で、空中脚腰下垂は全く起きていません。

それに対し、末續選手は離地したあと、その脚の股関節をできるだけ低い位置に保ちつづけ、図A、図Bの局面の次の大腿が上がり切る局面になって、ようやく高くしているのですが、実はこれが彼の速さの大きな秘密の1つなのです。

この空中脚腰下垂が起きている時、身体の中で起きていることを見てみると、末續選手の場合、空中脚の側の大腰筋が垂れ下がると同時に後ろに残り気味になって引っ張られて伸びている(これを厳密には空中脚腰後下垂と言う)、つまり大腰筋に大きな張力がかかった状態になっているのです。

大腰筋は胸・腰椎と両股関節のすぐ下の大腿骨をつなぐ筋肉で、これが後ろ下方に引き伸ばされた後に縮む時、大腿骨が前方に引き上げられる、つまり大腿が前上方に突き進むのです。

筋肉というのは張力がかかるほどに、強い力を発揮する性質をもっています。つまり伸ばされることによって、エネルギーが溜まっていくわけです。ゴムを引っ張った状態を想像してください。

同じ長さのゴムならば、その長さがより長くなるように引っ張るほど、戻り幅が大きくなって、結果たくさんのエネルギーを生みますが、ちょうどそれと同じことが彼の空中脚側の大腰筋で起きているのです。

つまり、彼は空中脚の股関節をできるだけ粘り強く下に落としたまま運んでいって、大腰筋に張力を溜めに溜めたところでパッと大腰筋を収縮させ、大腿を前に一気に振り出している。これが彼のもも上げなのです。

さらに、離地してから脚が前方に振られるプロセスにおける彼の脚のスピードを細かく見てみると、前半は空中脚腰下垂をしながら、比較的ゆっくりしているのですが、後半に入ると急速にスピードが上がり、一気に大腿が振り上げられ、大腿が上がり切った時、最高スピードになっているのです。

大腿が上がり切った時のスピードが速ければ速いほど、そのまま前に行こうとする移動慣性力がより強く大腿に働きます。勢いよく前に動いている物は急には止まれません。

それを引き戻そうとすると、引き戻そうとした身体自体が前へ運ばれるのです。走りでいえば、振り上げた大腿が切り返されて後ろに引き戻され、膝関節も伸展してきた時に身体がグンッと前に進むのです。

つまり、彼の身体は足で地面を掻く時だけでなく、空中でも進んでいる。だから速いのです。

100mで10秒03を出した後、「それほど力を入れなくても、ちょっと接地しただけで自然と前に進む、滑るような感触でした」と彼は言っていましたが、今説明したように、空中脚の切り返しの局面でも、体幹部を推進させる身体の使い方ができると、このようなことが起きてくるのです。

下手な走りほど接地直前の体幹部のスピードは落ちるのですが、空中脚腰後下垂が起き、切り返し直前の脚のスピードが速く、そのスピードを慣性力として利用できると、体幹部がスピードに乗ったまま接地できるために、体幹部と接地脚の速度差が少なくなることで、接地がとてもなめらかになるのです(これを体幹接地脚速度一致化と言う)

また体幹部をこれだけ柔らかく使え、低重心のまま走っていることもなめらかな接地と関係しています。

体幹部が硬いとどうしても身体が上下動し、その結果、ガツン、ガツン地面を蹴る動きになりやすいのです。「地面を蹴る」という運動感覚があったら、9秒台の選手にはなれません。

9秒台の選手は、接地時の感覚を「軽く接地するだけ」とか、「やさしくやさしく地面に足をおいていくだけ」というように表現するのです。

9秒を目前にしていた時の伊東浩司選手もそうでした。ちなみに日本の古来の武術では、蹴ってはいけないという教えがあります。

その世界で本当に優れた身体の使い方ができる人は、どんな高速運動をしても地面を蹴らないものですが、そのような身体の使い方と短距離のトップレベルの接地の仕方には共通するメカニズムがあります。

 

「空中脚腰下垂」とグニャグニャした動きとの関係

なぜ末續選手はこのような空中脚腰下垂ができるのでしょうか。実はその秘密が、先ほどお話した肩腰交互開閉、すなわち、身体を左右にグニャグニャさせるトカゲ型の動きにあるのです。

図Aの局面で言えば、左肩と左腰の間を伸ばして開いていく一方、右肩と右腰の間を縮めて狭めていくと、右側の体幹部(これを右側体と言う)の収縮エネルギーで左側体が引き伸ばされるために、大腰筋に大きなスレッチがかかり、そこにたくさんのバネ性の伸張エネルギーが溜まりやすくなるのです。

つまり肩腰交互開閉が起きると、肩と腰ではさみ込まれた部分の筋出力が、開かれた側の大腰筋のより強大な筋出力につながり、そのエネルギーで脚が振り出され、その結果、脚に働く強い移動慣性力でもって、体幹部が前へ放り出されるのです。

さらに、大腰筋が働くと、その共働筋である腸骨筋も強力に働きます。腸骨筋は腸骨と両股関節をつなぐ筋肉です。

大腰筋と腸骨筋が強く働くと、股関節の裏側にあって、振り出された脚を後ろに引き戻す働きをするハムストリングスも、それに拮抗するように強く働きます。

すると、移動慣性力で体幹部がグッと前へ進むだけではく、ハムストリングスで脚が後ろに強烈に振り戻されることによっても、体幹部はさらに前に推進するようになるのです。

身体を左右にグニャグニャさせることと身体が前に進むことは、一体何の関係があるのかと思った方も多かったと思いますが、実はこのようなメカニズムで左右の波動運動が、前後の推進力に転換されるように人間はできていて、それを実に巧みに使っているのが末續選手の走りだと言っていいでしょう。

末續選手は他の世界上位のランナーと比べても、日本の朝原選手と比べても、筋肉がほっそりしているので、かなりか細く見えます。

それなのに、なぜあれだけ速く走れるのかというと、身体の表面ではなく、目には見えない体幹部の中の筋肉を出力資源にして、そこから生まれるエネルギーでスピードを出しているからなのです。使える筋肉は体幹部の中にいくらでも残されているのです。』

全体を通して読んで見ると、末続の走りのポイントは次のようにまとめられます。

1. 肩腰交互開閉によって、肩と腰ではさみ込まれた部分の筋出力が、開かれた側の大腰筋のより強大な筋出力につながり、そのエネルギーで脚が振り出される。その結果、脚に働く強い移動慣性力が生じて、体幹部が前へ放り出される・・・対側部の伸張反射を引き出す。

2. 大腰筋と腸骨筋が強く働くことによって、股関節の裏側にあって、振り出された脚を後ろに引き戻す働きをするハムストリングスも、それに拮抗するように強く働いている・・・大腰筋と腸骨筋の伸張反射を引き出している。

3. 1と2のメカニズムによって、左右の波動運動が前後の推進力に転換されるように人間はできている。

4. 身体の表面ではなく、目には見えない体幹部の中の筋肉を出力資源にして、そこから生まれるエネルギーでスピードを出している。

5. 使える筋肉は体幹部の中にいくらでも残されている。

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