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脱・筋力主義|ニュースレターNO.251

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面白いタイトルの本を見つけました。市野聖治他:脱・筋力主義 スポーツ上達のコツ(スキージャーナル2009)です。「重力」と「リラックス」と言うのは、私の指導の基本になっているキーワードですので、楽しみに読みました。

私にとって特別なことは書かれていないのですが、これまでのトレーニングの本とは違うポイントで書かれているので、アスリートのトレーニングを指導されている方にとっては参考になる考え方がたくさん出てくると思います。

走ったり跳んだりすることにおいて、尐し違った見方をすることができると思います。著書に書かれている内容を、また著者たちが何を訴えているのか、それを理解できればトレーニングにおいてレパートリーを広げることにもなると思います。アスリートの指導に関係されている方には、ぜひ一度読んでいただきたいものだと思います。

今回は、ほんの一部をピックアップして紹介したいと思います。

『スプリント種目の筋力トレーニングにおいて、そのおもな目的は、股関節伸展筋群の筋出力の向上です。スプリンターやその指導者が、股関節伸展筋群を鍛える理由は前述したとおりですが、これにはいくつかの疑問点があります。

一点目は、そのトレーニング方法です。ハムストリングのトレーニング方法としてスクワットが挙げられますが、股関節と膝関節にまたがるハムストリングは、股関節と膝関節が同時に屈曲(または同時に伸展)する運動においては長さが変化しません。これは、ふたつの関節にまたがる二関節筋という筋の特徴です。長さが変化しないということは、積極的に関節角度変位に関与していないことが考えられます。

このことから、スクワットのように股関節と膝関節が同時に屈曲(伸展)する運動は、ハムストリングのトレーニングとしては、不向きであると考えられます。

また、ハムストリングの積極的な長さ変化を期待したトレーニングとして、レッグカールが挙げられます。しかし、レッグカールは膝関節の屈曲運動です。膝関節を曲げてハムストリングをトレーニングしておきながら、実際のスプリントでは股関節伸展筋群としての作用を期待するのは矛盾しています。

さらに、レッグカールは、錘(負荷)に力を作用させて、その錘(負荷)自体が移動し、身体は移動しません。このような運動のことをトレーニング理論では、オープン・キネティック・チェーン運動と呼びます。一方で、疾走運動は、地面(地球)に力を加えても地面(地球)が移動するわけはなく、身体が移動します。

このような運動のことをクローズド・キネティック・チェーン運動と呼びます。両者は、名前を変えて明確に区別され、また両者の違いは、必要とされる筋出力の違いと、抗重力筋を動員しているかどうかで解釈されます。したがって、疾走という運動の特異性を考慮したトレーニングを行なうのであれば、クローズド・キネティック・チェーン運動によるトレーニング種目を採用することが、その特異性に合致しています。

2点目は、10メートル/秒を超えるような速度で疾走しているとき、股関節伸展筋群は、能動的な力の発揮が可能か?という問題です。トップスプリンターともなると、最大疾走速度は10メートル/秒を超え、脚全体のスウィング速度は600度/秒を超えます。

物理的に、力の獲得と速度の獲得は両立しません。したがって、大きな力の発揮が必要とされる運動においては速度の発揮を犠牲にし、大きな速度の発揮が必要とされる運動においては、力の発揮を犠牲にする必要があります。このような力と速度の関係を「力-速度関係」と言います。

つまり、力-速度関係を考慮すると、10メートル/秒を超える疾走速度や、600度/秒を超える脚全体のスウィング速度が必要とされる場合に、筋が能動的な力発揮をすることは不可能ではないかと考えられるのです。

三点目は、単関節筋と二関節筋との機能解剖学的な特性の差についてです。ハムストリングとは、大腿二頭筋長頭、半腱様筋および半膜様筋の総称です。そして、これらの筋は、股関節と膝関節とにまたがる二関節筋です。二関節筋は、大殿筋のように単一の関節にのみまたがる単関節筋とは、その特性が異なります。

その特性の違いとは、単関節が運動に必要な力や速度のジェネレーターとしての役割を果たしているのに対して、二関節筋は関連する関節間のエネルギーの受け渡しを担っていることです。前出のように、スクワット運動のような運動においてハムストリングの長さが変化しないのは、関連する関節間のエネルギーを受け渡すためなのです。

このことから、ハムストリングの筋力を向上するうえで考慮すべき点は多く、ウエイトトレーニングによってハムストリングを鍛えるには、それなりの工夫が必要なことがわかります。また、疾走における股関節伸展筋群の役割についても、再考する必要があります。さらに、単関節筋である大殿筋は、接地中に能動的な力を発揮している可能性がありますが、二関節筋であるハムストリングは、能動的な力を発揮していない可能性すら考えられます。』

『地球上に生きるすべての生物は、大きな力を発揮するために、意識的か無意識的かに関わらず、反動動作を用いています。反動動作とは一旦、意図する方向とは逆の方向に動いた後、意図する方向に動くことです。したがって、立った状態から跳ぶという動作では、意図する方向が下方向であり、反動動作は上方向となります。つまり、沈み込みという反動動作によって高く跳ぼうとするのです。

反動を用いるのは、人間だけではなく、地球の重力に抗して生きる生物すべてに当てはまります。跳ぶという動作を物理的に考えると、まず立位の状態から一旦、重心を下げて運動エネルギーを獲得し、このエネルギーを筋や腱に蓄え、それを筋や腱が再利用することによって、重力に抗する大きな力やスピードを発揮することが可能となります。つまり、身体重心を下げなければ、そもそも「跳ぶ」ための原動力となるエネルギーが得られないのです。

このように考えると、重力によって身体が地球の中心に引きつけられるエネルギー(速度)を、「跳ぶ」という運動の源にしていることがわかります。したがって、跳ぶことは「地球に跳ばせてもらっている」と考えることができます。そして、地球の重力をうまく利用し、地球に跳ばせてもらうことが反動を使うということになるのです。

次に、反動動作を筋や腱の働きからみてみましょう。たとえば、垂直跳について考えてみます。前述のとおり、反動とは身体重心の沈み込みであり、身体重心の沈み込みとは足関節、膝関節、股関節の屈曲です。足関節が屈曲した場合には、足関節の伸展作用を持っている腓腹筋が引き伸ばされます。

同様に、膝関節が屈曲した場合には膝関節の伸展作用を持っている外側広筋が、股関節が屈曲した場合には股関節の伸展作用を持っている大殿筋が引き伸ばされます。大きな力を発揮するためには、また乗直跳でより高く跳ぶためには、このように反動動作によって筋を一旦、引き伸ばすことが重要です。

筋というのは一旦、引き伸ばされた後に力を発揮したほうが大きな力を発揮することができます。これは、バネやゴムに大きな力を発揮させようとする際に、一旦、大きく引き伸ばすことと同じです。このように、高く跳ぶコツは、まず反動動作を用いることによって、筋を一旦、引き伸ばすことです。ただし、何でもいいからとにかく引き伸ばせばいいというものでもありません。』

『筋がバネと異なる点として、引き伸ばしてから即座に跳ね返さないと、その張力が失われてしまう点を挙げました。さらにもうひとつ、筋がバネと異なる点があります。

それは、引き伸ばすスピードと跳ね返る力との関係です。バネは、ゆっくり引き伸ばしても一気に引き伸ばしても、跳ね返ってくる力は同じです。しかし、筋の場合はゆっくり引き伸ばすよりも、一気に引き伸ばしたほうが大きな力を発揮することができます。それでは、跳ぶという運動において筋を一気に引き伸ばすためには、どうすればよいのでしょうか? それには、抜重という現象を起こすことがコツとなります。

抜重とは、体重が地球によって支えられていない状態を意味します。より具体的な表現を使うと、「宙に浮いている」状態です。抜重の状態をつくり出すためには、2通りの方法が考えられます。それは、「自由落下すること」と「ジャンプすること」です。スキーの指導書において用いられる抜重は、ジャンプすることによって得られる抜重です。跳ぶコツにおいて用いられる抜重は、自由落下することによって得られる抜重です。

跳ぶコツとしての抜重、つまり自由落下は、「地球の力によって落ちる」ものです。したがって、立位の状態から抜重を生み出すためには、脚という支えを外して、身体重心を一気に自由落下させなければなりません。そして、落下によって得たエネルギーで筋を一気に引き伸ばし、その反動で跳ぶことが高く跳ぶコツなのです。』

『立位の状態から身体重心の抜重を起こすためには、一気に下肢三関節(足、膝および股関節)を屈曲させることが必要です。これは、バレーボールでスパイクを打つときに必要とされるような助走付き両足ジャンプでも同じです。

しかし、この助走付き両足ジャンプでは、踏み切りの両足が接地したときには、すでに下肢三関節が屈曲していなければなりません。なぜなら、スパイクを打つ際に必要とされるジャンプでは、助走で得た水平方向の速度(運動エネルギー)を利用する必要があるからです。もし、このとき助走から直立状態を経てジャンプをすると、助走で得た水平方向の速度を一旦、消失させてからジャンプすることになります。これでは、何のために助走をしてきたのかわかりません。

助走で得た水平方向の速度を効果的に利用するためには、水平方向の速度を保持したまま身体重心を下げなければなりません。これは、両足で踏み切る一歩前の歩幅を尐し大きめにすることで可能になります。

踏み切りの一歩前の歩幅を大きくすることで、身体重心を下げることができるようになります。そして、これにより助走で得た水平方向の速度を最小限のブレーキで利用することもできるのです。』

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